第2回北方学会国際シンポジウムに向けて   煎本 孝

 1991年に開催した「北方ユーラシアと北アメリカの宗教と生態」国際シンポジウムの成果がCircumpolar Religion and Ecology: An Anthropology of the North (University of Tokyo Press, 1994)〔『周極地域の宗教と生態―北方の人類学』〕として出版されました。ここでは、周極地域の宗教と生態に関する多様な視点からの分析討論により、北方文化の特徴として、季節的二元性、動物の送り儀礼、自然と超自然的世界との間の互酬性と初原的同一性、北方シャマニズムを抽出し、宗教と生態との間に動的相互関係があることを明らかにすることができました。
 そこで、この成果に基づき、さらに一歩踏み込んだテーマであるシャマニズムとアニミズムに焦点を当て、第二回目の国際シンポジウム「Animism and Shamanism in the North(北方民族の世界観―シャマニズムとアニミズムをめぐって)」(ICNSA2 1995 Sapporo)を開催することにしました。シャマニズムとアニミズムは前回の国際会議においても言及されましたが、従来より北方諸文化における重要な特徴の1つとして指摘されてきたものです。しかし、北方におけるアニミズムとシャマニズムの本質、両者の関係をめぐる諸問題については今までそれ自体を中心テーマとして十分に分析されてきたとはいえません。さらに、これらのテーマは文化、社会、生態等、生活の諸側面とも深く関連しており、人類学一般にとっても重要なテーマとなるものです。
 したがって、本シンポジウムの目的は2つあります。1つは、人類学一般におけるアニミズムとシャマニズムに関する研究への理論的貢献です。他の1つは、北方ユーラシア、日本、北アメリカを含む北方諸文化の比較に基づく北方のアニミズムとシャマニズムの内容と意義の再評価です。
 なお、北方学会はこの3年間で内外170名を越える会員を有するに至っています。その研究成果の蓄積を国際シンポジウムを開催することにより、広く世に問い、かつ北方地域研究のより一層の推進を計ることが可能になります。また、本シンポジウムに向けての準備として、1994年9月には、ヘルシンキ大学教授ペンティカイネン氏を招き、北方学会主催のもとに一般市民を対象として北方文化セミナー「北方民族の世界観」が開催されています。そして、現在、ハンガリーアメリカ合衆国、カナダ、フィンランド、ロシアなどからの研究者の参加が既に受諾されているという準備状況にあります。
 各研究発表者がそれぞれ自由で多様な視点から個別に北方諸文化についての事例研究を提示することにより、本シンポジウムにおいて周極地域諸文化の多様性と共通性を明らかにすることが可能となると考えられます。各発表者は、北方ユーラシアおよび日本における諸文化―日本、アイヌツングース、ヤクート、モンゴル、その他のシベリアの人々―、北アメリカにおける諸文化―アリュートイヌイット、アサパスカン、その他の北アメリカ・インディアン―に関する研究を発表します。さらに、このことにより、日本文化、アイヌ文化の北方諸文化における位置づけを行うことができるでしょう。また、アニミズムとシャマニズムの本質についてヒトの生物学的側面と文化的側面から論じることができるかも知れません。本シンポジウムが北方諸文化の研究と国際交流によって人類の理解に貢献できることを期待しています。
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