北方学における国際情報ネットワーク・システムの構築   煎本 孝

 北方学会の目的は、多様な北方文化の研究と国際協力を通して人類の理解に貢献することである。したがって、その活動内容には国際シンポジウムの開催をはじめ、北方研究に関する情報の収集、発信を行ない、関連学会との間での情報の交換と相互協力を推進することが含まれている。
 このため、北方文化の研究と国際交流を目的に、「北方ユーラシアと北アメリカの宗教と生態」と題する国際会議が北方学会の設立記念第1回国際シンポジウムとして1991年に北海道大学において開催された。さらに、1992年には従来より北方文化研究施設文化人類学部門において継続して行なわれていたアイヌ文献資料のデータベース作成が国際北方地域研究に関する基礎的情報資料の整備として位置づけられ、『Ainu Bibliography(アイヌ関係文献目録)』として出版され、国内外の図書館、博物館、研究機関等に配布された。
 国外においては、1992年のカナダにおける国際北極社会科学会議において、各国における北方地域研究機関、および本学会を含む諸学会の紹介がされた。また同年、フィンランド国ロヴァニエミのラップランド大学において北方研究に関する教育プログラム、カリキュラム等についての国際会議が開かれた。
 このように、北方地域研究は日本をはじめとする国際間の協力と理解なしには進めることができない。しかし、近年、北方地域の社会と文化は急激な変化をとげつつある。そこでは、従来の伝統的北方文化研究の枠を越え、変化する国際関係に則した新たな北方研究の目標と方法とが模索されているという状況にある。
 たとえば、1993年にモスクワで開催された第7回狩猟採集社会国際会議においては、「現代的脈絡における狩猟採集民」が課題としてとりあげられた。そこでは、変化する狩猟採集社会と国家との関係、各民族による伝統的紛争解決方法による和平形成のメカニズムの重要性について議論された。また、1993年に極東シベリア、カムチャッカ地域において行なわれた北海道大学ロシア科学アカデミーとの国際共同研究の結果、かつての伝統社会は急激な変化の中で将来の方向性を見い出すべく、日本との間の新たな社会的、経済的、政治的、文化的関係に強い関心を持っていることが明らかとなった。
 すなわち、現在、変化をとげつつある北方地域の社会と文化を理解し、変化する国際関係に対応するために、従来より行なわれていた伝統文化の比較研究にとどまらず、変化という新たな枠組みの中での北方研究の展開が求められているのである。そこでは変化する伝統社会と個人との関係、変化する伝統社会と国家との関係はもとより、それらと複雑に関連する国際社会との関係の分析が重要になってくる。
 したがって、北方研究には国際的視野に立った学術交流が必要となる。各国の学会、研究機関における北方研究の現状、およびその応用面としての教育プログラム、文化交流プログラム等についての最新の情報を把握し、国際情報網体系(ネットワーク・システム)を構築することが必要である。
 そこでは次のような効果を得ることができるものと考える。すなわち、
 1.現在の北方地域における研究・教育に関する各国の情報を把握し、学術交流、国際協力のための国際情報ネットワーク・システムの稼働を可能とすることができる。
 2.各国の研究動向を参考にし、また、国際協力を行ないながら日本における北方研究の伝統のうえに、今後の北方研究に関する新たな枠組みを確立する。
 具体的には、必要文献・情報資料のデータベース化、北方研究における研究・教育プログラムの作成とその実践、展開を可能とする。これにより、国際北方研究の一層の充実と発展をはかることができるのである。
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